個展「spot」には、同じタイトルの作品があります。
識別のためのナンバリングはしないとして、全く同じタイトルでご提示しています。
それが「boundry」。
この水平線の作品の数々も同じ「boundry」。
風景画として見れば、どこの海だろう、奥見える陸地はどこだろう、天候が崩れそうだ、寂しげだ、季節はどうかなどとパーツを拾いがちにも。菅野静香はこの水平線を一つの限界点、境界としてとらえた取材活動も進めたようです。人は、物理的な境界や社会的な境界によって定義されることがありますが、思考においても境界が存在します。
境界を意識することは、自分や他者との関係を見直すきっかけにもなれば、異なるルールや文化や価値観に触れることで、私たちは自分の思考の枠を広がるでしょう。そのことで偏見や誤解、劣等感が緩和され、共感や理解が深まることも。
また、limitが同義語でもあるように、自分の限界を知ることは、諦めというネガティブな意味ではなく、受容れる、吹っ切る、進化へのスタートだとも思うのです。
制作を「戻れない時間や場所にアクセスするための手段」として、消失した場所や過去の記憶をモチーフにして描くことで、もう存在しないものや手に入らないものを実現していたといいます。この個展の時点ではもはや「もうそこには戻れない」という区切りにきていると明言するのを聞くと、彼女がまたあたらしい視野をもって、次の制作に臨むのであろうという、期待を感じます。
アーティストの声をインタビューした記事もぜひ