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「Thumbnail 2.5」
& ゲレンデ
2025年3月15日(土)から3月30日(日)まで、「ゲレンデ イラストレーション 個展 Thumbnail 2.5」が開催されます。
ゲレンデ氏に鉱物のことや作品などについてお話を伺いました。展示会と併せて、ぜひおたのしみください。
なお本ページにてご紹介する作品名については割愛させていただいております。予めご了承ください。

ゲレンデ氏としてのご活動は、2017年からとお伺いしていますが、そのきっかけについてお聞かせください。
私は大学と大学院でアニメーションを専攻し、修了後はフリーランスのアニメーター兼映像作家として活動しています。映像制作は、作業を進める中で膨らませようと思えば際限なく膨らんでしまい、時間軸の管理がとても重要になります。私の場合、ある程度効率化を図らなければならず、常に取捨選択を求められる状況でした。
その「引き算」のような考え方に囚われることが次第にストレスになり、その反動で、一枚の静止画にじっくりと向き合い、密度を高めた作品を作りたいと思うようになりました。それが、ゲレンデとしての活動を始めるきっかけだったと思います。
ゲレンデ氏の誕生には、お仕事の影響があったのでしょうか?
仕事の影響というよりは、むしろ反動に近いかもしれません。制作に対する自分自身の向き合い方が、大きく影響したと言えると思います。

日々収集されている鉱物をモチーフに作品を制作されていますが、鉱物への興味はいつ頃からなのでしょうか?
子どもの頃、ゲームやアニメに触れる中で、例えば『ポケモン』の“進化のいし”や、少女漫画に出てくる変身アイテムのように、透明でキラキラしたものが魅力的に描かれるシーンがありました。それを見て、「石ってすごく神秘的なんだな」と惹かれたのが最初の「いいな」と思ったきっかけだったと思います。
また、新聞の折込チラシに載っていた宝飾店の広告で、並べられた宝石を眺めるのも好きでした。もともと透明でキラキラしたものに惹かれる性質があったのかもしれません。
子どもの頃は、ディアゴスティーニのような「1冊買うと1つ付いてくる」タイプのシリーズを両親にねだって買ってもらい、少しずつ石を集めたりしていました。ただ、当時は「好き」ではあったものの、夢中になるほどではなかったですね。
大人になってある程度自由にお金を使えるようになってから、大学生の頃だったと思いますが、鉱物を扱うお店よりも、世界中の売り手が集まるコミケのような即売会の方が面白くて、そういうイベントで自分の買える範囲内で楽しむようになりました。
鉱物の美しさと、そこに宿る世界が魅力的な作品が多いですが、制作において気をつけている ことなどはありますか? 作品には、写実的なものから柔らかな印象を与えるものまで、幅広さを感じます。
できるだけ実物の石をよく観察し、その構造を理解した上で描くように心がけています。
手元に実物がなくても、一方向の写真だけである程度は描けますが、鉱物は透明なものが多いため、「この反射している線は一体何が映り込んでいるのか?」といった情報は、実際に手に取らないと分からないことが多いんです。
なので、「これはこうだから、こう見える」という理屈をしっかり分析し、手に持って確かめながら描くことを大切にしています。
私自身は、どの作品も基本的に同じ姿勢で描いているつもりなのですが、見る方によって印象が異なるというのは、とても面白いですね。
形や色など、想像で石を描くことはありますか?
水晶は基本的に透明なので、色に関しては意識的につけることが多いです。 初期の作品で、レモンが入った水晶を描いたことがあるのですが、実物や写真を見ると、実際にはあのような色彩ではないんです。「このキラキラした心地よい空間に、どんな色をどう配置すれば、この印象になるのか?」と考えながら、色をパズルのように組み合わせて作り出すことがあります。
特に固有の色を持たない石については、そういった手法を使うことが多く、そこから作品ごとの印象の違いが生まれているのかもしれないと、お話を伺いながら改めて思いました。


作品では、石の中に描かれている世界と、石の外に描かれている世界がありますが、それぞれに違いはありますか?
作品をつくる際の基本的なスタートは、実物の石を見て「どう見えるか」を考えるところから始まります。
例えば、水色の背景に飛行機が飛び、下に白いオパールのようなものがある構図は、「雪山っぽいな」と感じたことがきっかけになっています。そのため、あのような構図になりました。
また、透明な石の中に小さな不純物がポツポツと入っていると、それが蝶々のように見えたりすることがあります。そういう印象から制作を始めると、自然と石の中にモチーフを入れることが多くなります。
ですが、どちらも最終的には「見た印象で決めて描く」という点では変わらないですね。
アニメーター・映像作家としてもご活躍されていますが、映像とイラストレーションの作品に は違いがあるかと思います。2つの制作に対して、どのように対応されているか、お聞かせください。
2023年、2024年は結果的にほとんどアニメーターとしての活動が中心でした。
アニメーターや映像作家としての自分は、「技術をクライアントに提供する」という意識で仕事をしています。一方で、ゲレンデとしての活動は、作家性を重視し、自分の表現を追求するためのものです。
そのため、生活のための仕事はアニメーターや映像作家としての案件が中心になり、その合間にゲレンデとして自主制作をしたり、場合によっては企業からの依頼を受けて作品を制作したりしています。
今後もアニメーター・映像作家、そしてゲレンデとしての活動を続けていきたいとお考えです か?
ゲレンデの活動だけで生活できるようになったら嬉しいですが、アニメーションをやっている自分も嫌いではありません。むしろ、アニメーションの経験があったからこそ、ゲレンデという表現が生まれた部分もあります。
アニメーター・映像作家としての自分と、ゲレンデとしての活動をどう続けていくか——この問いには簡単には答えられないですね。本当に難しいです。
ゲレンデさんの作品は、光の表現が独特なのか、影の使い方なのか、時折動き出しそうに見えることがあります。それはアニメーターとしての経験が影響しているのでしょうか?
観てくださる方からそう見えるのだとしたら、面白いなと思いました。
影については、確かに意識していて、気づいたら真っ黒になってしまうこともあります。夫が大学でイラストレーションの先生をしているので、たまに作品を見てもらうのですが、「影がちょっと濃すぎる」「もう少し丁寧にしたほうがいい」といったアドバイスをもらうこともあります。そのため、結構意識して調整するようにしています。
光を透過している以上、単純なベタ塗りの黒にはならないですし、影も「なぜこういう影ができるのか?」を考えながら描いています。そうした意識が、作品の中に表れているのかもしれませんね。

個展のタイトルは 「Thumbnail 2.5」とのことですが、Thumbnail(サムネイル)という名称にした理由を教えてください。
「サムネイル」の由来は、鉱物標本からきています。鉱物にはサイズごとに名称があり、一般的に1cmから3cmほどの標本を「サムネイルサイズ」と呼ぶそうです。そこから名前を取っています。
モチーフが小さいことで観察した際の見え方に面白いエラーが起き、イマジネーションが膨らむきっかけになります。あえて小さいサイズのモチーフを選んでいるということを宣言するためのタイトルです。

今回の個展のみどころについて教えてください。
関西で個展を開催するのは、今回が初めてです。
2023年7月にBIOMEで個展を開催されていた、写真家・宮本敏明さんの作品とともに、BIOME Kobeさんを訪れて実際にどんな空間なのかを拝見しました。そのときの印象も今回の展示に活かせたらと思っています。
今回の展示では、作品とそのモデルになった鉱物を見比べられるようにする予定です。SNSなどで絵をご覧になっている方も、実物と見比べることで新たな発見があるのではないかと思います。そうした「違いを楽しむ面白さ」を感じていただけたら嬉しいです。
もうひとつの見どころは、普段デジタルで制作している私が、今回アナログで描いた作品5点を併せて展示することです。デジタルでは1ピクセル単位で思い通りに画面を作れますが、アナログではそうはいきません。計算しきれない偶然性が生まれることで、デジタルとはまた違った面白さがあると思います。デジタルとアナログ、それぞれの表現の違いも楽しんでいただけたらと思います。
ゲレンデ
イラストレーション 個展
「Thumbnail 2.5」
2025.3.15 Sat - 3.30 Sun
12:00 - 17:30
(最終日 11:00 - 15:00)
休廊日は水・木曜日

ゲレンデ gelande
北海道札幌市出身。
多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒業。東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。
本名である中内友紀恵の名義で映像作家・アニメーターとして活動する中、2017年より「ゲレンデ」名義でイラストレーター・画家としての活動を始める。装画制作の分野を中心に活躍しながら『機動戦士ガンダム水星の魔女』1期ED内イラストレーション、『ポケットモンスター』グッズシリーズ「SHINKA NO ISHI」イラストレーションなど、他のあらゆるメディアの案件も手がける。日々収集している鉱物をモチーフにした作品を自身のWEBサイト及びSNSにて公開中。
東京イラストレーターズ・ソサエティ会員。
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https://www.instagram.com/_gelande/
Website
gelande.art
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