Knowing More About 小川 かなこ & 「Blink」
2024年11月16日(土)から12月1日(日)まで、小川かなこ氏による絵画個展「Blink(ブリンク)」が開催されます。
小川氏は、タイトルについて「Blink(ブリンク)はまばたきのことです。まばたきのその一瞬でも世の中は少しずつ変わっていきます。その前とその後は同じようで、全然違う。その瞬間を切り取って形にできたらと思って、いつも描いています」と語っています。
イラストレーター・絵本作家として活躍中の小川氏に、作品や制作についてのお話を伺いました。来たる個展とあわせてお楽しみください。
作品名:ブランコ
ガラス絵の技法で描かれているとのことですが、描くきっかけについて教えてください。
私は絵を描くスピードが速かったので、自分に少し制約を与えたいと感じた時期がありました。例えば、利き手ではない左手で描くなどしてみれば、意図しない表現ができるのではないかと思っていました。
昔、カルチャースクールで広報として働いていたとき、勉強のために油絵教室に参加しました。メキシコの教会の絵を模写する授業があって、その技法がガラス絵でした。その体験では、墨で線を描き、油絵具で色を塗り、金箔を使うなどしていました。その技法はとても面白い反面、難しいとも感じました。特に、最初に手前に出る線を描かなければならなかったり、左右が反転したりと、独特の技術が必要です。
その技法を思い出して、手近にあったアセテートフィルムに描いてみたところ、パースがずれたり、意図しない表現が出たり、見ている人にも「動きがある」と感じてもらえることが、この技法を続けるきっかけとなりました。
作品名:せせらぎ
たしかに、動きのある絵だと感じました。また、色使いも印象的で頭に残ります。描く際に心がけていることを教えてください。
紙に描かないことで、にじみが抑えられ、より鮮やかな色彩が生まれると感じています。また、定着が良い不透明な絵の具として、アクリルやリキテックス、ガッシュなどを使っています。
もともと旅が好きでヨーロッパ方面へ旅行に行くことがありました。東欧の古い雑貨や絵本が好きで、それが私の色彩感覚に影響しています。古い雑貨の色彩の捉え方を意識して、できるだけ少ない色数で描くことを心がけています。2色や3色程度でグラフィック的な効果を目指して描いています。これによってコントラストが効いて、より印象的な作品になると考えています。
作品名:Holiday
過去の展示会で、白と黒で描かれた作品を展示していましたが、それも色数を減らす意図で描かれたのでしょうか?
コントラストを重視して白と黒で描くことが面白いと感じ、その手法を取り入れました。黒く塗った画面に白っぽい線を抜いていくような作品を描いていた時期がありました。
私には、カラフルな色彩で描く作品、紺色の線でミルクベージュのベースに描く作品、そして黒と白の作品という3つの手法があります。さまざまな表現を楽しんでいるので、ひとつに固めることはしていません。
他の絵と同様に、ガラス絵の技法で描いていますが。黒い絵は版画のような仕上がりになり、面白い表現ができます。
作品名:二人の森で
イラストレーターの仕事で描く作品と、展示会のために描く作品では違いがありますか?
イラストレーターに憧れてこの仕事を始めました。イラストレーターの仕事では、お題があり、誰に対してベストな答えを出すかを考える職人的な作業があります。また、デザイナーやコピーライターと一緒に作り上げる楽しさもあります。
一方、展示会のための作品は、自由に描くことができる反面、すべて自分で決めて表現する必要があり、自己表現に伴う責任も大きいです。自分の内面を出すという意味で、テキストも自分で考えるため、描く際の精神的な負担は大きいです。
特に個展などでは、オリジナル作品を作ることに大きなエネルギーが必要で、毎回ドキドキしながら挑んでいます。
作品名:わかさぎ釣り
絵本についてお聞かせください。一枚絵を描く場合とは制作方法が異なると思いますが、どのように取り組まれていますか?
スポーツで言えば、テニスとサッカーは同じ球技でも全く違いますよね。それと同じで、絵本とイラストレーションも違うと思います。絵本は、私にとって長距離走のようなものです。登山のように、完成までに時間がかかり、何度も修正を重ねながら丁寧に着々と進んでいきます。
絵本では、特に低年齢層の読者を意識しながら、わかりやすく、色彩で伝えやすくすることを心がけています。購入者にとって大切な宝物になるよう、最後まで印刷の色をチェックしています。
一方で、イラストレーターの仕事は短距離走のようなものです。すでにチームがほぼ完成していて、最後に私が呼ばれ、ゴールを決めるような感覚です。限られた時間内でベストな答えを出す緊張感があります。
イラストレーションではアートディレクターやデザイナーが映画や音楽に例えて説明することがあったりで、その方が私の場合はイメージなど共有しやすかったりします。
展示作品の場合は、自分の心の中から何かを引き出して描くことが多いです。日常の中で、例えば空が綺麗だなと感じた瞬間など、そうした心の揺れを作品に込めています。観る人にも、そういった瞬間の感動が伝われば良いなと思っています。
作品名:winterday
「きのこの森で」を観ました。絵本と同様、とても動きがあり、ファンタジー感あふれる作品でした。今回の展示予定の作品について教えてください。
初期に描いていた、たくさんの女の子が登場するファンタジックで幻想的な作品を久々に表現しました。神戸での個展は初めてなので、新作と初期の頃の作品も展示予定です。
現実には存在しないけれど、誰もが心の中で感じたことがあるような情景を描きたいと思っています。例えば、学生が同じ制服を着て並んでいる光景など、見たことがあるけれど、どこか不思議な世界として表現できればと思います。
きのこや森といった日常的なモチーフを使って、観る人に柔らかい気持ちを抱いてもらえるような作品を描いています。
「Blink」では、人が登場する作品が多くなる予定です。
作品名:きのこの森で
今回の個展では、絵本の原画なども展示予定ですか?
絵本の原画は展示しない予定です。ただ、7月に開催したイラストレーションの原画展で展示した「Blink」の雰囲気に合った作品をいくつか展示する予定です。
絵本作家、イラストレーターとして今後の活動について教えてください。
今、絵本の新作を考えて、すすめていますので楽しみにしていてください。
来年2025年2月10日(日)から2月22日(土)まで、東京の南青山にありますピンポイントギャラリーで100人展「Time二十四時」に参加します。作品一点展示、販売予定です。
作品名:fall
小川 かなこ Kanako Ogawa
イラストレーター・絵本作家
東京都生まれ。和食器屋店長、カルチャースクールスタッフを経て、イラストレーターに。
2008年第7回TIS公募大賞受賞、ペーターズギャラリーコンペ 網中いづる賞など受賞歴多数。
明るくビビットでありながら瑞々しい表現で、広告や書籍、CDジャケットなど多くのイラストレーションを手掛けている。
絵本に『パンダのソフトクリームやさんやさん』(福音館書店)、『うさぎさんのたんじょうび』(「こどものとも年少版」2020年6月号)、『パンダのたこやきやさん』(「同」2022年10月号/ともに福音館書店)、『ぺーとぼく』(やづきみちこ文)、『歌舞伎絵本「茶壺」』(中村壱太郎文/ともにくもん出版)など。
小川 かなこ
絵画 個展「Blink」
2024年11月16日(土)から
12月1日(日)まで
12:00 − 17:30
最終日のみ 11:00−15:00
休廊日は水・木曜日
作品名:冬がきた