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写真とガラスの二人展
「にぶくひかる -Dull and Glowing-」
& 内田 亜里
2025年2月22日(土)から3月9日(日)まで、「写真とガラスの二人展 内田 亜里 と佐藤 幸恵 写真とガラスの二人展 にぶくひかる -Dull and Glowing-」が開催されます。
内田氏に、作品とその技法などについてお話を伺いました。また内田氏からは、作品のシリーズ「HAFURI」についての説明をいただいています。併せて、お読みください。
なお本ページにてご紹介する作品はすべて「HAFURI」からとなりますので、作品名については割愛させていただきます。予めご了承のほどお願いいたします。
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神戸で展示会などをされたことはありますか?
関西は初めてなので、神戸でも初となります。主に関東で活動しています。
今回の二人展は、カテゴリーの違うお二人のアーティストの作品をご紹介するものとなります。「にぶくひかる – Dull and Glowing」への参加の決め手についてお教えください。
BIOME Kobeさんのギャラリーは、自然光が入り、空間が綺麗だなと思いました。
今回ご一緒させていただく佐藤さんの作品も、繊細で、素直に好きだなと。
BIOME Kobeさんの空間、佐藤さんの作品、そして私が参加させていただくことのイメージが美しくできて、ご一緒させていただきたいと思いました。
美しくイメージができたとお話しいただきましたが、そのあたりをもう少しお聞かせいただけますか?
佐藤さんの作品について、実物は拝見できておりませんが、昔の土器の破片や陶片のようなものが使われているかと。そういったものは、記憶のようなものを内包していると思います。そこに佐藤さんが時代の感性で新たに融合させているところが、私も制作する上で大事にしている部分なので、合うのではないかと思い、決断しました。佐藤さんをご紹介いただき、感謝しています。
ネットで公開されている過去の展示会などの情報を拝読しました。プロフィールの部分に「10年以上にわたり長崎県対馬を継続的に訪れ、民俗学的なフィールドワークを下地に中判カメラによる写真撮影を続けている」とございましたが、作品としては「Earthbound」のシリーズから始まったものでしょうか?
対馬を訪れるようになったきっかけは、「Earthbound」よりもう少し前になります。
小説家の金石範(キム・ソクポム)氏が、韓国の済州島を舞台にした小説を書いており、済州島は対馬に近く、何十年も前に大量虐殺が起きた悲しい歴史のある場所です。先生の本のため、ともに済州島へ取材に行きました。私は写真撮影を担当しました。
取材でさまざまな村を巡り、お話を伺いました。虐殺が起きたため、済州島から対馬経由で日本へ逃げてくる人も多くいたと聞かされ、それが対馬との初めての出会いでした。韓国から見た日本、そして遠くない場所で起こった出来事の存在に衝撃を受け、対馬を訪れてみようと思ったのがきっかけです。それから自身でさまざまなことを調べ、興味が深まっていったというのが経緯です。
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BIOME Kobeにお送りいただいた作品画像を拝見しました。また、作品のシリーズタイトルである「HAFURI」についても読ませていただきました。「HAFURI」のシリーズは続いていくのでしょうか?
長く対馬や済州島で作品を撮っており、これまでは「葬る山、斎く島」として発表してきました。今回タイトルを変更したのは、現在写真集を制作していることもあります。ここ数年、海外の方に見ていただく機会が増えたため、よりわかりやすく、ダイレクトに伝わる言葉を探し、「葬る山、斎く島」の両方の意味を持つ「HAFURI」をタイトルとしました。
写真自体はずっとフィルムで撮っており、「HAFURI」は続けているシリーズです。雁皮紙に焼いたり、箔を裏から貼ったりするのは、ここ5年ほどの手法で、やり方としては定着しつつあるかと思います。
「にぶくひかる – Dull and Glowing」のタイトルについて、ど のような印象をお持ちですか?
私の作品は、1枚ではなく、5層くらいの構造になっています。極めて薄い雁皮紙に、プラチナプリントという古典技法で焼きつけ、その裏から膠で箔を貼り、さらに裏打ちをして雲肌麻紙(くもはだまし)という和紙に貼り、その後も裏打ちするというものです。
裏箔という技法を使っており、プリントの絵柄の裏から箔を貼ることで、やわらかく、奥行きのある表現ができます。やんわりと光がにじみ出るようなプリントにしたかったので、「にぶくひかる」はすっと自分の中に落ちてきました。
デジタルを一切介していないアナログな写真なので、これまでの展覧会ではプリントに関してほとんどの方から質問をいただき、なかには「版画ですか?」「絵ですか?」と聞かれる方もいらっしゃいます。制作方法が一般的な写真とは異なるため、同じものを再現することはできません。
最近では、デジタルで撮影したものをインクジェットで和紙にプリントするケースもありますが、それとは全く異なり、本来の写真の定義の上にあるものだと考えています。そのあたりの説明は、ご覧いただく前に必要かとは思います。
今後の活動についてお聞かせください。
たくさんありますが、直近では写真集を完成させることが目標です。
フランスの写真集専門ギャラリーで展示会が決まっているため、まずはそこに向けて。これまで展示会中心に活動してきたので、ページを編集することの大変さを痛感しています。ギャラリーの方から「写真集は自身のビジネスカードになるのだから、時間をかけても一から自分で編集しなさい」と言われています。
体が動く限り、ライフワークになりつつある対馬へ通い続けると思いますが、新しい作品の構想も固まってきているので、並行して進めていきたいです。
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シリーズについて(内田氏より)
HAFURI(はふり)とは、葬または祝の意味を持つ日本の古語である。
葬は死後に葬られること、そして祝は穢れを祓うこと、そして鎮魂と祈りをさしている。
この作品の中心をなす場所は、島国である日本と朝鮮半島の国境に存在する島である。
この島の小さな村に残る遠く神話の世界にも通ずる死生観は、私の実感として深く心を揺さぶり続けている。その実感は、幼少期に感じた死への強烈な恐れと肯定、そして日本で暮らす日々の中での所作や年中行事の中に形を変えながらも潜む、異郷から来る神や祖先を敬い祈る心から派生しているものである。
地理的にこの島は国境線に位置していることから、天候により時折見える異国の山々は古くは異郷・異界とされ、高貴なものが虚舟(うつろふね)でやってくる場所や、鬼の住む場所ともされた。海彼の地は憧れであり、恐れる地でもあったという。近代になりこの島は、戦の防衛拠点としてある期間において繁栄し、今なお多くの遺構も残している。そのような信仰や繁栄を過ぎた現在のこの島は、独特な憂いの風景を残している。そこに強烈に現れ出るものは、葬(はふり)と祝(はふり)のあわいで剥き出しになった太古から継承された人と自然の感性そのものではないか。私にとってこの島は、憧れであり、恐れる地でもあったのだ。そうしてこの島が私の写真表現の中心地となった。
この作品は、ある島の民間伝承、祭祀空間、境界史のリサーチを元に制作している。島の風景が持つ複合的な物語を表現するため、日本の伝統的な和紙や箔を使用した日本画技法と写真古典技法を融合させた実験的な写真作品である。これらの技法はかつて朝鮮大陸から日本へ渡り、日本で独自の変化を遂げた大和絵の空間認識と色彩への考察に基づき導きだされたものである。
内田 亜里
Ali Uchida
https://www.instagram.com/uchidaali/
写真家 神奈川県三浦郡在住
2001年
東京造形大学デザイン1類写真コース卒業
2006年
文化庁新進芸術家国内研修員(東京藝術大学写真センター)
2012年
公益財団法人ポーラ美術振興財団在外研修員として渡印(ゴム印画の研究、インド・ゴア)
2017年
公益財団法人テルモ生命科学芸術財団助成(日本画材料による写真古典技法の研究)
主な展覧会など:
2024年
IPA2024 (International Photography Awards) フィルム/ファインアート部門 佳作賞
Jury TOP5 (Selected by Claudia Hinterseer)
個展「風景の夢」山崎文庫
「Photo Basel 2024」IBASHO GALLERY, スイス
2023年
個展「葬る山、斎く島」ギャラリーナユタ
Reminders Photography Stronghold主催 「Le Plac Art Photoに作品をピッチする日」
大賞受賞
IPA2023 (International Photography Awards) フィルム部門 佳作賞
「Art Antwerp」IBASHO Gallery, ベルギー
2022年
個展「風景のディアスポラを撮る 済州島、壱岐・対馬、そして長崎」 ギャラリー册
「伝えたい情景ー木版画家 山岸主計と現代作家たち」藤沢市アートスペース
「縄文へのオマージュ」ギャラリーTOM
2020年
個展 「葬る山、斎く島」鎌倉ドゥローイングギャラリー
「ゲーテの目、あるいは舞踏する庭」アートビオトープ那須 スィートビラ客室
2019年
個展「居る所絶島」MUSEE F
2018年
「The secret 2018」リコーイメージングスクエア銀座
2017年
「『A.W.P Selection 2017』‐次世代を担う写真家たち」 リコーイメージングスクエア銀座
2015年
「ザ・ニュー・ヴィジョン」ポーラミュージアムアネックス
2014年
「序曲、出会いと五感の交響楽=大分」大分県立美術館
2013年
個展「“Colours of Faith – 彼の地の色- “ Exhibition of Gum Bichromate Prints」
Aurodhan Art Gallery,インド
「Gum Bichromate」Thalam,インド
2011年
「Invitation Au Voyage」 ギャラリー册
2010年
個展「Earthbound 」 MUSEE F
2009年
「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」
「She was there」高島屋ギャラリーX
2008年
「sustainable art project 2008「事の縁」展」旧坂本小学校 2007年
「《写真》見えるもの/見えないもの」東京芸術大学大学美術館陳列館
個展「見る」 MUSEE F 東京
2006年
個展「Mirror Model」MUSEE F 東京
「on-limits」 SAKURA FACTORY,BOX KIOKU,東京都青梅市 巡回展示RYOKAMI-STUDIO 埼玉県小鹿野
2005年
「両神プロジェクト 2005,11-2006」
RYOKAMI-STUDIO ,埼玉県小鹿野町両神小森
「Young tree press 展」 Prinz 1f gallery,京都
「群馬青年ビエンナーレ05」 群馬県立近代美術館
「sunday」タナカカツキ、内田亜里 PH gallery, NEW YORK.
「scope new york]」FLATOTEL, NEW YORK
個展 「KE」ギャラリー覚
2003年
個展 「KE」ガレリアラセン
2002年
「第20回 写真ひとつぼ展」 ガーディアンガーデン
2001年
個展「パパはくたばりたくないと言った」 ライトワークス
1998年
Image Forum Young Perspective 98「コギャルレポート」
イメージフォーラム
ほか
写真とガラスの二人展
内田 亜里と佐藤 幸恵
「にぶくひかる -Dull and Glowing-」
2025年2月22日(土)〜 3月9日(日)
12:00 - 17:30
最終日 11:00 - 15:00
休廊日 水曜・木曜
開催期間中、2月22日と23日に
「内田亜里とMANABU(edu):青写真 (サイアノタイプ)で扇面をつくる」を予定しております。
詳細についてはHomeに掲載している情報をご確認ください。
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